未来に向けて、フルノが力を入れて取り組んでいる分野のひとつが自動運航。日本財団が2020年2月より推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」に参画しており、2024年7月に世界で初めて*、複数船舶を遠隔で航行支援する「陸上支援センター」が、古野電気社屋内に構築されました。船舶の事故の防止、海運業の担い手不足、離島航路の維持など、様々な社会課題の解決につながるものとして期待されている無人運航船。
今回は、プロジェクトに参画し陸上支援センターの構築に尽力した、自律航行システム開発部の栁原智哉さんに、これから訪れる未来の姿を聞きました。
* 2024年7月時点。陸上からの複数の無人運航船の航行支援が世界初

栁原 智哉さん
2012年入社。陸上支援システムの開発リーダーを担当。
海と陸をつなぐ──支援システムがもたらす未来の働き方
──無人運航システムにおける、陸上支援センターの役割について教えてください。
無人運航システムは大きく分けて3つの要素で構成されています。
- (1)自律航行を担う「船舶」
- (2)陸上から船舶を支援する「陸上支援」
- (3)通信回線と情報管理制御等を担う「通信(衛星通信)」
今回、当社に設置されたのは(2)を担う常設型陸上支援センターです。このセンターでは、世界初となる複数の船舶の遠隔運航支援が可能で、来年から始まる実証実験では4隻の船舶を同時に支援する予定です。ここでの役割は、監視だけではなく、船が安全かつ効率的に運航ができるよう支援することにあります。
──具体的には、どのような業務を支援するのですか?
船の乗組員の業務は多岐にわたります。運航計画の立案、気象情報の確認、港での荷物の積み降ろしのスケジュール調整、さらに航海計器やエンジンまわりの装置のメンテナンスなど、多くの作業が日常的に行われています。これらの作業は船会社や船舶管理会社、代理店、港湾などに個別に確認をしながら進めなければならないことも多く、乗組員に大きな負担がかかっています。また、スケジュール通りに港に到着しても、他の船の状況によって待機を強いられることも多々あると伺います。
陸上支援センターでは、これらのタスクを陸側で担います。具体的には、気象や港湾の状況をリアルタイムで分析し、最適な運航計画を立案。また、船に搭載されている航海計器やエンジンシステムの状態を陸上から遠隔でモニタリングし、必要に応じて適切な対応を実施することで、乗組員がより効率的かつ安全に働ける環境を整えることを目指しています。
デジタルエンジニアリングが拓く新たな可能性
──陸からの支援によって、乗組員の働き方が大きく変わりそうですね。無人運航船がもたらすメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?
無人運航の大きなメリットは、安全性と効率性の向上です。高度なセンサーを用いた物標検知システム、危険なエリアを自動で回避する経路生成システム、設定されたルートを正確に追従する制御システムなど、最新技術によって操船業務が自動化されます。これにより、乗組員の業務負担は大幅に軽減され、ヒューマンエラーによる海難事故の多くを削減できる可能性があります。私たちは、究極的には「海難事故ゼロ」を目指しており、それがこのプロジェクトの根幹にあります。

──デジタル化による業務の変化は、どのような影響を与えるのでしょうか?
自動運航システムの実用化に向けて、仕様や性能の規格化、開発・検証プロセスの標準化も進めています。フルノとしては、これらの規格をベースにシミュレーターを活用した検証を行うなど、開発業務のさらなるデジタル化と効率化を推進しています。最終的には、海事産業に関わるすべての人が、デジタル技術の恩恵を受け、人間にしかできない“創造的な業務”に集中できる未来を目指しています。
デジタル化の本質は、単なる効率化だけでなく、働き方そのものを変えることにあると考えています。

未来の海運業界──「Ocean 5.0」が切り拓く世界
──このプロジェクトを通じて得られた知見や経験は、海運業界全体にどのような価値をもたらすと考えていますか?
技術開発だけでなく、関係者と議論し、合意形成を重ねる経験が業界全体の大きな財産になると考えています。この知見を活かしながら、未来の運航システムを具体化していきたいです。フルノは、航海計器のリーディングカンパニーとして、データの収集・活用を担っています。今後は他業界と連携し、社会全体に溶け込むシステムを設計していくことが重要です。Ocean 5.0で遠い未来を描きながら、そのための現実的な課題を一つずつ解決していく。そのバランスこそが、私たちの強みです。
──最後に、柳原さんが考える海運業界の未来を教えてください。
未来の海運業界は、より働きやすく、効率的で、持続可能なものになっていると信じています。自動運航によって海難事故ゼロを目指すのはもちろん、少人数での運航や、熟練したスキルがなくても操船が可能な環境を整えることで、世界中の海上輸送が今よりもっと確実でスムーズに行われるようになります。さらに、この自動運航船の技術をきっかけとして、海運業界全体のデジタル化を加速し、陸運を含む物流全体の最適化やモーダルシフトの推進につなげていく。その先にあるのは、海・陸・空の垣根を越えた、データによる統合管理と最適化された物流システムです。
これまで人の経験や勘に頼っていた海運の世界が、データを活用し、より精緻で安全なものになっていく。そしてそれが、持続可能な社会の実現にも貢献することになるはずです。
私たちの挑戦は、単なる技術開発にとどまらず、“より良い未来をつくる一歩”になればと思っています。
