FURUNO MIRAI PULSE

202511.18

フルノの英雄たちの物語 フレディ・ハンセン

“デンマークヴァイキング“と自称するあくなき探求者

2021年、デンマークのトレレボー(Trelleborg) ヴァイキングの要塞跡で撮った写真。祖先の前人未踏の領域を開拓する「勇敢な心」、「積極的な活動力」、「諦めない意志」を自分のモットーにしたフレディ

「商船向けレーダー全世界シェア43%」で、名実ともに世界トップメーカーであるフルノ。実は1990年代半ばまで商船市場では三流ブランドであり、なかなか本格的に入り込めないジレンマを抱えていた。その状況を打破できたのは、フレディ・ハンセン(以下、敬称略)の貪欲な姿勢の賜物と言えるだろう。保守的な商船市場で厚い壁がある中、フレディはどのように道を切り拓いたのか、ここにレジェンドたる所以が隠されている。
※2023年1月から12月に日・中・韓造船所での建造船(タンカー、バルクキャリア、ドライカーゴ)に搭載したレーダーの数より算出

あらゆる情報を貪欲に取り入れ、
商船市場で何をすべきか追求

創業から37年間一度も赤字を出していないフルノデンマーク(FDK)を、トップとして率いる秀でた経営者であるフレディは、実は大手IT会社のエンジニア出身である。デンマーク空軍として地対空ミサイルやレーダーシステムのメンテナンスに従事し、続いて外航船市場を手掛ける伝統メーカーRaytheon(レイシオン)で活躍した。舶用無線機器のサービスを提供するISR(FDKの前身)で、さらに専門技術の知識とグローバルビジネス案件の経験を蓄積。
売上が世界トップクラスの海運企業であるA.P.モラー・マースク(コペンハーゲン)をはじめとする欧州の多くの船舶会社との関係構築から強力な人脈を築いてきたフレディは、当時、フルノの商船市場での立ち位置を最も理解していた人物であり、商船市場を打開するために何をすべきかを察知していた。

フルノは当時、お家芸とも言える超音波技術を駆使した深度/速度計測システム、いわゆる音響測深機やドップラスピードログをはじめ、商船用レーダー開発も進むなど、個別での製品は充実してきていた。しかしながら、レーダーに指定された数種の海図を重畳させる技術の開発に課題を残していた。フレディは、これをクリアしなければ商船市場へのパッケージ提案ができず、本格的に参入できないと考えていた。

FDK社長就任式(左から、当時の國友社長とフレディ)
フレディは1980年にISR(その当時のフルノの代理店、FDKの前身)に転職し、1987年にISRの買収に伴いFDKの社長に任命された

1993年、海軍の船舶に通信機器を提供したフィンランドのNAVINTRA社(フルノフィンランドの前身 ナビントラ社)を知り、フレディは同社が独自開発を進める電子海図/プロッタシステムに関心を寄せた。これが後に本格的な商船市場参入を決定付けることになったフルノ統合ブリッジシステム(現在の統合航海システムINS)の中心を担うECDIS(エクディス)のベース技術となる。

1995年、フルノ統合ブリッジシステム 初代“VOYAGER”のモックアップがFDKのウェアハウスに現れた。“VOYAGER”のリリースに向け努力していたフルノグローバル商船チーム(左から二人目がフレディ)。日本の浮世絵に出てくる波をデザインコンセプトとしたコンソールがお披露目された。機器操作時に船員を支える取手の位置も、人間工学的な観点によって、従来の常識であった腰位置からコンソールの最上部に配置した。 1995年、ノルウェー開催の国際海事展覧会NOR-SHIPPING95がフルノ初代 “VOYAGER”のデビューとなり大反響を得た。これまでの単品レベルでの展示ではなく、1パッケージのブリッジシステムを供給できるメーカーとしてスタートした記念すべき瞬間である。

90年代はフルノ本体が創業以降初めての赤字となった低迷期であり、既存の漁船市場の挽回に躍起になっている状況下で、大きく後れをとる商船事業の拡大には意欲的な有志者が少なかった。そんな中、フレディは公的機関であるIMO(国際海事機関)、CIRM(国際海上通信委員会)と積極的にコミュニケーションをとり、商船業界のルールと動向をいち早く詳細に調査していた。また、船長や造船所が望む製品の仕様を詳細に把握することで、自ら本社に、より的確な商船向け新製品開発を強く提案し続けた。フレディは、フルノの商船市場進出の足掛かりを築いたと言っても過言ではない。

元CMO小池よりひと言

あの時代に商船市場をしっかりと認識できている人は、フレディを除いて他にはいなかった。欧州での製品・システムの統合化が進んだ時代の動向をいち早く察知して行動を起こせたのはフレディがいたからだ。

専門的サポート体制をグローバルに展開

商船市場参入に不可欠である統合ブリッジシステム“VOYAGER”を開発したものの、「フルノは故障発生時にどの程度の対応力があるのか?」と顧客は半信半疑だった。商船市場では、各国で装備義務が掲げられており、義務装備品に問題があれば出港や入港が許されない。よって、全世界どこにいてもトラブルに対応できる体制が求められる。ISR時代から付き合いがあるA.P.モラー・マースクからも、“Not this time‚ perhaps later(次の機会にまた)”と断わられ続けていた。フルノに優れた製品やシステムがあるにも関わらず信頼を得られない辛さは、現場で指揮を執るフレディが人一倍感じていたことだろう。

フレディはその状況を変えるべく、フルノ商船事業の成長戦略の一つとして、世界的な販売・サービス支援体制を整える必要があると考え、FDKを起点に“VOYAGER”をサポートできる組織を構築した。本社直轄となるフルノ欧州支店(FURUNO EUROPEAN BRANCH OFFICE‚ FEBO)である。

本川さんがFDKに駐在していたときに参加したEUROPORT展示会の様子。
左から3番目がフレディ、右から2番目は本川さん

全世界にいるフルノの商船チームをより活発に機能させるために、元航海士などを含めた専門集団を構築・育成し、全世界の顧客に向けた “VOYAGER”の販売支援を始めるとともに、修理用パーツの在庫をFEBOに集約・確保することで、欧州を発着する全世界の船舶を強力にサポートできる体制を整えた。さらにFEBOでは、ECDISをはじめとした認定トレーニングコースを開始。FEBOは既に役割を終えてクローズされたが、現在もFDKでトレーニングの受け入れを継続しており、海技学校生や海軍士官など、これまでに延べ14000人が受講している。これらの取り組みが、各船舶会社、造船所などからの信頼獲得につながった。地道な努力を重ねて、結果的に船主からメーカー指定を獲得できるようになり、商船市場にフルノの存在を知らしめた。

“家族”は最強の応援団。仕事にエネルギシュなフレディも、プライベートでは家族と過ごす時間を大切にしていて、毎年、家族全員でスキー場に行く。息子さんの影響で、バイクも趣味として楽しんでいる

本川さんよりひと言

技術研究所ビジネスラボ室長

私がFDKに駐在していた1992年当時は、世界的に漁船市場向けの売上が低迷する市場環境で、FDKも同様の状況に直面していた。社長として、そして営業マンとして人一倍、売上=注文に貪欲だったフレディは、営業部門のオフィスに鐘を吊り下げて、注文が入ったらその鐘を鳴らす仕組みを作った。鐘が鳴ると、フレディは大きな身体を揺らしながら社長室を飛び出し、営業部門まで駆けつけて担当者を大いに労うとともに全身で喜びを表現し、そして他の社員にも刺激を与えていた。苦境を乗り越えるために社員を一つにまとめようとする彼の強い意志がよく分かるエピソードである。

前進をやめない。
新たなビジネスを創造し続けている

81歳になった今、フレディはこう振り返る。

「FDKの社長に就任したとき、当時の社長、國友さんからこのように言われました。“フレディにFDKの経営管理者としての最大決定権を与える。キャッシュフローを意識して健全な発展を目指して実践してくれ”と。私はフルノで約40年間働いていますが、國友社長のこの言葉は今でも心に残っています。この信頼を背負ったからこそ、事業の開拓やさらなる市場シェアの拡大など、目標を立てて意欲的に挑戦できました。私の提案を本社とフルノグループの皆さんがよく理解してくれたことも大きな励みになり、それが『絶対に達成する』という原動力になりました。会社のさらなる成長を実現させることは、今も私の悲願であり責任でもあります。商船に限らず、漁船市場においてもアイスランドとグリーンランドのディーラー買収を検討したり、FSA(フルノスウェーデン)内にスマートブリッジのR&Dセンターの構築を推進したりしています。やりたいことはまだまだたくさんあります!」

FDKの25周年記念式典。古野社長、フレディとFDKおよびFDK傘下の子会社の皆さん

和田CFOよりひと言

フレディは、デンマークだけでなく、FFOY(フルノフィンランド)、FSA(フルノスウェーデン)、FPZ(フルノポーランド)、FEO(フルノロシア・現閉鎖)の立ち上げを自ら行い、FDKの傘下にしてきた。また、アイスランド、ラトビア、リトアニアなど欧州各国を巡り、自ら率先してテリトリーを拡大していた。これが一度もFDKで赤字を出さない好業績を実現してきた豪腕たる所以であり、結果的にフルノの成長戦略、事業拡大に大きく貢献してくれたのだと考えている。

これからの世代へ
伝えたいこと

ビジネスの開拓には確固たる正解はありません。「何をすればいいのか」「どんな仕組みがあれば成功できるか」と自分に問いかけて、周りの全ての人と付きあう中で、目を見開き、聞き耳を立て、知識、情報、人脈を貪欲に手に入れてください。その全てが、成功への道しるべにつながり、自分の宝物になるのだから。

また、見栄を張らず、自分の足りない部分を素直に受け止め、探究心を持って深く勉強することが大切。他人にできることなら自分にもできるという自信と覚悟を持って、自分の可能性を最大限に引き出すように諦めずに取り組んでください。
Others may give up, but we (Furuno) never will!

また、見栄を張らず、自分の足りない部分を素直に受け止め、探究心を持って深く勉強することが大切。他人にできることなら自分にもできるという自信と覚悟を持って、自分の可能性を最大限に引き出すように諦めずに取り組んでください。
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Engagement
~未来を共に創りましょう~

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