2025年2月から、大阪大学大学院工学研究科、大阪府環境農林水産部、そしてフルノの三者連携で始まった「海ごみゼロおおさか 未来創造プロジェクト」は、産官学のそれぞれの強みを生かし、海ごみ対策に取り組む新たな試みです。
本記事では、フルノ、大阪府、大阪大学のそれぞれの関係者に、連携のきっかけとなった想い、現場で直面したリアルな課題、そして、連携したからこそ初めてできたことを語ってもらいました。
(左)佐藤 知英さん(古野電気株式会社 経営企画部 ブランドコミュニケーション課 課長)
(中)関 郁穂さん(大阪府 環境農林水産部 環境管理室 環境保全課 技師)
(右)中谷 祐介さん(大阪大学大学院工学研究科 准教授)
海ごみの現状把握には連携が必要だった
──三者が連携する前はどのような課題があったのでしょうか。
関さん(大阪府):2019年のG20大阪サミットで、「2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにする」という大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが共有されました。これが、私たちにとっての第一のスタートです。その後、大阪府では「2030年までに大阪湾へ流入するプラスチックごみの量を半減する」という目標を掲げ、取り組みを進めてきました。
ただ、目標は決まっても、大阪湾に流入するプラスチックごみの実態が、当初はまったく分かりませんでした。大阪湾は非常に広く、目に見える範囲だけでは実態を把握できません。まずは現状を知り、どれくらいのごみがあるのかを把握するところから、地道に始めなければならない状況でした。量的な実態が見えない、まさに手探りのスタートで、大学の学術的な知見や、企業の技術と連携しなければ、このプロジェクトを進めるのは難しかったと感じています。
──中谷先生はもともと海ごみの研究をされていたのでしょうか?
中谷さん(大阪大学):いえ、私の研究室では、もともと下水管内にたまった泥が川へ流出する「浮遊汚泥」の問題を研究してきました。その過程で、川に流れるプラスチックごみの問題にも取り組むようになり、大阪府と連携して川ごみの調査を行うようになりました。ただ、川ごみは最終的に海へ流れ込みます。そこで、海の方にも目を向けて調査を進めていこうと考え、取り組んでいたところです。
私たちの主な研究手法は、川のそばにカメラを設置して水面を撮影し、その画像をAIなどで解析してごみの状況をモニタリングするというものです。しかし、この方法では水面に浮かんでいるごみしか捉えられず、水中や水底にどれだけごみがあるのかは分かりません。
──水底のごみも把握する必要があるのですか?
中谷さん(大阪大学):はい。水底に堆積したごみは普段はそこにあり続けますが、大雨が降った際に、そうした堆積ごみが一気に流れ出る可能性があります。ですから、表面だけでなく、水中や水底のごみをどう把握するかが重要になってきます。その点については、フルノさんの技術に大きな期待を寄せています。
──水中ごみならフルノの技術が貢献できるということは、最初から分かっていたのでしょうか?
佐藤さん(フルノ):いえ、中谷先生と出会うまでは、正直手探り状態でした。海に育てられた企業として、啓発だけでなく、技術の面でも海を守ることに貢献したいという想いは以前からありました。そこで、私の先輩である西山と相談し、社内で優秀なエンジニアを5、6名集めて、環境プロジェクトを立ち上げました。
ただ、立ち上げたのはいいけれど、海ごみに関する知見が足りず、何をすればよいのかなかなか踏み切れない状態が続いていました。想いはあっても、どの方向で技術的に貢献すべきかを決めきれずにいたのです。
そのような中で中谷先生とお話しする機会があり、「表層ごみは見えるけれど、水中は見えていない」という課題があることを知り、その言葉で、私たちのやるべき方向性が一気にクリアになりました。中谷先生からのヒント、そして大阪府さんとの想いの一致があって、ようやく本格的に動き出すことができた、という感覚です。
産官学の三者連携のメリットとは
──みなさんは三者連携のメリットをどのように感じていますか?
佐藤さん(フルノ):実は、私たちは魚の探知はしてきましたが、プラスチックの探知をした経験はありません。まさにそこからのスタートでした。これからデータを取りながら知見を積み上げていかなければならない中で、まず「どこで調査すべきか」という点については、中谷先生の研究と連携し、関さんに現場の調整をしていただきながら進めています。自分たちだけでは分からないこと、判断できないことを、研究と行政の視点で補ってもらえる。それが、この連携の大きな支えになっています。
中谷さん(大阪大学):僕らは大学の研究者なので、研究をして、その成果を学術論文として発表します。ただ、いくら良い論文を書いても、それを読むのは専門家に限られてしまい、なかなかそれだけで社会が変わるわけではない、というジレンマをずっと感じてきました。
そういう意味で、行政との連携で一番価値を感じているのは、研究成果を行政に情報提供できることです。採用されるかどうかは別として、その成果をもとに施策を考えていただける。実際に施策を動かし、社会を変えていくのは行政ですから、研究が社会につながっていく実感があります。
一方で、企業との連携にも大きなメリットがあります。大学の研究室は、どこも企業と比べると小規模です。数名の研究者と、研究を学んでいる途中の学生が中心ですから、やりたいことがあってもマンパワーには限界があります。その点、企業はやはりパワーが違います。予算の規模も違いますし、佐藤さんがお話しされていたように、プロフェッショナルが5、6人集まるというのは本当にすごいことです。研究だけではできないことが、一気に現実味を帯びてくるのです。
関さん(大阪府):行政としては、まず府民の方に「大阪湾にプラスチックごみが流入している実態があって、問題解決のために様々な取り組みを進めている」ということを発信していくことが、最も大切な役割だと考えています。連携することで、行政だけでは得られない専門的な知見を得られるという点は、すでにお話ししてきた通りですが、発信という面でも、いろいろな主体の方と一緒に取り組むことに大きなメリットを感じています。
──市民のみなさんへ発信することが重要なんですね。
関さん(大阪府):はい。ごみの問題は、府民の方の生活に非常に身近なものです。一人ひとりがプラスチックごみを減らす、ポイ捨てをやめるといった行動を取らなければ、最終的な解決には至らないと思っています。だからこそ、現状をしっかりお伝えし、意識を変えていただくことが重要です。
また、フルノさんは私たちが課題だと感じていた水中ごみの把握の部分にぴったり合う技術をお持ちでした。啓発的な取り組みだけでなく、技術的な面でも連携できている点は、この三者連携の大きなメリットだと感じています。
共通の目標に向かって、それぞれの強みを生かす
──連携に至るまでに、何か苦労はありましたか?
佐藤さん(フルノ):他の企業や大学、行政と連携して新商品やサービスを開発することは、これまでも当社としての実績はたくさんあります。ただ、今回のように、ビジネスに直接つながるわけではないプロジェクトでの連携は、当社としてもあまり経験がなく、どう進めていけばよいのか悩んだ部分もありました。どこまで踏み込んでいいのか分からず、慎重になりすぎてしまったところもあって、結果的に少し時間がかかったと思います。
中谷さん(大阪大学):確かに慎重でしたね(笑)。最初は、フルノさんとは情報交換や意見交換で終わるのかな、という印象でした。ただ、何度かお話しする中で、佐藤さんや、佐藤さんの先輩である西山さんの熱意が徐々に伝わってきました。それを通じて、自分たちがやりたいことと方向性が一致していると感じるようになりました。
関さん(大阪府):大阪府としては、G20サミットが大阪で初めて開催され、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」という大阪の名を冠した目標が世界に発信されたこともあり、海ごみについては先陣を切って取り組みたいという想いが強くありました。そのため、連携には大きなメリットを感じていました。しかし一方で、お二方にとっても本当にメリットがあるのか、どこまで連携できるのかという点では、正直迷いもありました。ただ、話を重ねていく中で、この連携は三者それぞれにとって意味のあるものになると、徐々に確信できるようになりました。
佐藤さん(フルノ):フルノのメリットが何かと聞かれると、正直なところ、まだ明確には見えていません。ただ、このプロジェクトを通じて新しい技術を身につけられるのではないか、そしてそれを将来的に他の事業や、他の地域へと横展開していけるのではないか、という期待はあります。
すぐに利益につながる取り組みではないので、上層部に話を持っていくときには承諾してもらえるか少し不安でしたが、話をすると即座に前向きな返事をもらえました。彼らも皆、海に育てられた人たちであり、海が持続することは、私たちの会社が持続することでもあります。そのために、何らかの形で貢献していきたいという想いは、会社として共有されていると改めて強く感じました。
中谷さん(大阪大学):それぞれが「海ごみの問題に対して、何かをしたい」という内発的な想いを持っているからこそ、うまく進んでいるのだと思います。三者それぞれがやりたいことを持ち、それが一致している。その共通の目標に向かって協力していく。そこが、今回の三者連携において一番大事なポイントだと感じています。
連携の流れを止めず、広げていく
──現在は、どのような取り組みをされていますか?
中谷さん(大阪大学):現在行っているのは、大きな河川から海へ流入するごみの量を把握する調査です。関さんにご協力いただき、橋などに新たにカメラを設置してモニタリングを始め、解析も少しずつ進めています。また、街中のどのような場所にごみが多く発生し、どのような流れで海に至っているのかについても、大阪府が保有しているデータを活用して研究を行っています。関さんに膨大なデータを整理・共有していただき、それをもとに解析を進めているところです。
関さん(大阪府):客観的なデータによって、ごみが出やすい場所が分かれば、対策も立てやすくなります。研究によって優先順位を考えられるようになるのは、行政としても非常にありがたいですね。
佐藤さん(フルノ):フルノとしては、まず超音波を活用して「川からの水中ごみの流入をどう評価するか」という基礎的な研究に取り組んでいます。そもそも魚とプラごみの反応の違いはもちろん、河川水中全体をどうカバーしていくのかも大きな課題です。さらに、川幅が広いうえに水深が浅いなど条件がかなり厳しい。そのため、どのような方法が適しているのかを検討しながら、データを集め、試行錯誤を続けている段階です。
中谷さん(大阪大学):水中のごみ探査というテーマは、研究としても技術的にも非常にチャレンジングで、面白い分野だと感じています。現在は、それぞれが個別の課題に取り組んでいますが、今後はぜひ共同研究という形で進めていけたらと思っています。
佐藤さん(フルノ):それは、ぜひこちらからもお願いしたいですね。今後、そうした形でさらに連携を深めていけたらと思っています。
──今後の意気込みを教えてください。
関さん(大阪府):プラスチックごみは、一度環境中に出てしまうと回収が難しく、生き物や景観にも大きな影響を与えます。だからこそ、この三者連携を通じてまず実態をしっかり把握し、その結果を府民のみなさんにお伝えして、日常生活の中でできることに一緒に取り組んでいただきたいと考えています。その目標に向けて、引き続き三者が一丸となって取り組んでいきたいと思います。
中谷さん(大阪大学):三者の連携は、今後さらに強めていきたいですし、必ずしも「三者」に限る必要はないとも思っています。この枠組みに、さまざまな企業や大学、自治体が加わってもいい。実際、この取り組みについて学会などで紹介すると、多くの方が関心を持ってくださいます。
佐藤さん(フルノ):そうですね。今、私たちが取り組んでいる対象は海でのプラごみ対策ですが、プラスチックごみ全体で考えれば、やるべきことはもっと幅広いと思っています。リサイクルフローなどによりプラごみそのものを減らすことや、分解可能なプラスチックの開発・使用など、さまざまなアプローチが考えられます。だからこそ、連携の幅がさらに広がっていくといいですね。そのためにも、私の役割として、このプロジェクトの流れを止めないこと、継続的に発信していくこと、そして周りを巻き込んでいくこと。この3つが重要だと感じています。










