FURUNO MIRAI PULSE

20263.27

フルノの英雄たちの物語 ハンヌ・ぺイポネン

フルノフィンランド(FFOY)元開発部長 ハンヌ・ペイポネン

2024年10月、本社IBS(Integrated Bridge System)ショールームにて

「現代の海上物流において、世界を行き交う船舶の安全な航海のために、ECDIS(電子海図情報表示装置)の設置が外航船に義務化されている。ECDISが存在しなかった時代からその技術に取り組み、この領域の専門家として名を馳せるのは、ハンヌ・ぺイポネン(以下ハンヌ)。ECDIS立ち上げにおいてグローバルな規格や標準化の構築に貢献し、海上物流の安全性を飛躍的に向上させた。業界全体の意見を聞いて最適化を絶えず考えて推し進め、今や世界中の有識者からも一目置かれる人物だ。様々な思惑を持つ業界・企業を取りまとめ、ECDIS立ち上げをどう切り開いてきたのか。レジェンドたる所以を紐解く。
※Electronic Chart Display and Information System。航海計画と航路監視において、船舶の安全航行を支援するための航海情報装置。ECDISが登場する前は、紙の海図を使って航海計画策定を行っていた

興味を追求して得た卓越した専門性

ハンヌは幼少期からDIYや機械いじりが大好きで、電車のおもちゃをもらうと、走らせて遊ぶのではなく、構造を知りたくて分解してしまうような子だった。その探求心は高校生になっても変わらず、ラジオやスピーカーの組み立てはもとより、マイクロプロセッサを自分で設計した。まだIT知識が普及していない1970年代、様々な用途のマイクロプロセッサを設計したハンヌの能力を、当時、舶用通信機器を開発したLKHの社長リンドホルムが目を付け、リクルートした。LKHは後にNAVINTRAに改名、現在のフルノフィンランドFFOYの前身となる会社である。

当時の船舶は、紙の海図で航海計画を立てており、GPSなどの自船位置を表示できるシステムはなかった。

ハンヌが設計したキーボード型コンピュータが、Helsinki Computer and game console museumに展示されている。その拡張モデルをLKHが採用した

LKHでは顧客の要望で、フィンランドとスウェーデンにある群島の間を通る船舶向けの、“電子ナビゲーションシステム”開発に挑んでいた。レーダーやジャイロを活用してリアルタイムに位置と船首方位を表示したり、複雑な処理を行ったりすることに苦労していた。効率的に進めるためには、当時一般的ではなかったコンピュータ処理が不可欠だと社長リンドホルムは判断。その能力を持つ人物として、ハンヌに強いラブコールを送った。

ハンヌはコンピュータに伴う知識だけでなく、システム全体の設計に興味があり、航海知識や航法装置の原理を徹底的に探究。日々チームメンバーとの議論を重ね、仕事の後には図書館や書店で海事書籍を読み漁った。また、海図専門家を訪問したり、地球の数理モデルなどあらゆる関連知識も学んだ。数年かけてコンピュータに新たなアルゴリズム※1を作りつつ、航海機器の特性まで深く理解し、ジャイロコンパスの誤差補正やレーダーによる目標物の信憑性の改善※2なども手掛けた。自船位置の表示精度はもちろん、システム全体の性能を向上させ、オートパイロットと連動される船舶用TCS※3の開発にも生かされている。まさに「点」でなく、「面」で深追いする気質を持つハンヌだからこそ、点の集合体である様々なセンシングの融合が求められる電子ナビゲーションシステムの開発につながったと言える。これが後に開発されるECDISの初期コンセプトになった。

  • ※1 コンピュータで計算を行うときの「計算方法」のこと
  • ※2 GPSによる測位システムの運用がまだ実用化されておらず、ジャイロコンパスやレーダー等を用いて位置を測位し、航路情報を電子システムで表示した
  • ※3 トラックコントロールシステム。海流や風などの影響によるドリフトを補正して最適な航路を保持する

諦めない信念が技術革新に

ハンヌがフルノの初代ECDISの開発リーダーを担当していた1990年代。電子チャート(ENC航海用電子海図)情報をECDIS上でフォーマット変換して表示させるには、膨大な処理が必要だった。当時のコンピュータでは性能が追い付かず、他のメーカーでは海図サービス業者などで事前に変換した後、船上のECDISにインストールするのが一般的だった。しかしハンヌは、船上で一貫して取り組める、より効率的な仕組みを模索。コンピュータ性能が低い状況下で、コンバージョンに必要な計算値を事前に処理したり、バックグラウンドタスクでの処理をするなど、あらゆる可能性を調査・試験し、ECDISの船上でのパフォーマンス向上に取り組んだ。ハンヌのブレークスルーに挑戦する信念こそ技術発展に不可欠であり、この姿勢が後に、IMO※4やIEC※5、CIRM※6などの様々な国際機関や業界団体により高く評価されることにつながった。

IEC TC80のチェアマンに就任し、スピーチするハンヌ   
2013年にIEC 1906賞を受賞(電気・電子技術の標準化及びその関連活動に大きく貢献した方に対する表彰)
IEC会議で発言するハンヌ。様々な国際会議に積極的に関与した
ハンヌが定年前に本社を訪れた際に開かれたパーティー。
取締役 常務執行役員の石原がハンヌの貢献に深く感謝した
  • ※4 国際海事機関
  • ※5 IECはIMOの規則に対する適合性テストのための技術標準を提供する国際標準化機関
  • ※6 舶用電子産業の国際技術協会

公共利益の視点で国際規格構築に貢献

数年前まで、ECDISの各メーカーは独自のインターフェイスを採用していた。船ごとに装備メーカーが異なることも多いため、その都度、航海士は操作環境を習得する必要があり、大きな負担だった。NI(英国の航海専門家組織)は、操船の安全性と効率化を向上させるために、統一のインターフェイスを採用するようIMOに提案。IMOはIEC TC80※7のチェアマンを務めるハンヌとNI、CIRMを招き、各メーカーのインターフェイスを標準化させる取り組みとして、S‐Mode(Standardized mode)の作成を議論した。しかし、市場における優位性を損なうことから、一部のメーカーから強く反対する声も大きかった。

2015年、韓国で開催されたIMO S-mode Work Shop

FFOYの開発部長も務めていたハンヌもメーカー代表として同様の立場だったが、より安全で効率的な航海を実現することが時代の進歩に不可欠で、公共利益を優先した解決策を取るべきと考えた。IEC TC80のチェアマンの立場として、IEC規格に準拠させるべく用語や略語、アイコンなどを統一しながら、一方でレイアウトには自由度を与えるなど、メーカー側の意向にも配慮した標準化を推進した。その提案はS‐ModeとしてIMOより2019年に正式採用され、現在のECDISの標準ベースとなっている。

※7 IEC TC80とは海事航行および無線通信機器・システムの標準化にフォーカスするワークグループ

これからの世代へ
伝えたいこと

「Try to see behind the trees」。これは、森の入口に立ったとき、目に見える木々だけで判断せず、森の中に入って木々を見ることを意味している。仕事におけるすべての課題に対しても、目の前の事実の後ろに何があるのかを「知りたい」という好奇心が重要。是非とも皆さんには、「森の奥」を見るように意識しつづけていただきたい。

技術革新は決して単一の要素によって成し遂げられるものではありません。目の前の課題に焦点を当てるだけでなく、その課題が発生した背景、過去の類似事例における解決方法、そして時代や状況が変わっても変わらない根本原理を徹底的に研究することが非常に重要です。

まるで森の中を歩くように、ゴールを制限せず、森の奥までの道のりそのものを発見と学びに満ちた旅として、楽しんでください。

技術革新は決して単一の要素によって成し遂げられるものではありません。目の前の課題に焦点を当てるだけでなく、その課題が発生した背景、過去の類似事例における解決方法、そして時代や状況が変わっても変わらない根本原理を徹底的に研究することが非常に重要です。

まるで森の中を歩くように、ゴールを制限せず、森の奥までの道のりそのものを発見と学びに満ちた旅として、楽しんでください。

取締役 専務執行役員 兼 CMO
矮松 一磨さん

ハンヌの貢献は計り知れない。統合航海システムの中心を担うECDISの開発は、無名だったフルノが商船市場に本格的に参入し、確固たる地位を築くに至った。その背景には、いつも自分なりにシナリオを考え、独自の洞察や知見を持つハンヌの存在があった。公的機関や業界団体でも積極的に活動し、その深い知識と弛まぬ努力で国際標準化の推進に貢献、社外からも高く評価され、敬意を払われている。

ハンヌの貢献は計り知れない。統合航海システムの中心を担うECDISの開発は、無名だったフルノが商船市場に本格的に参入し、確固たる地位を築くに至った。その背景には、いつも自分なりにシナリオを考え、独自の洞察や知見を持つハンヌの存在があった。公的機関や業界団体でも積極的に活動し、その深い知識と弛まぬ努力で国際標準化の推進に貢献、社外からも高く評価され、敬意を払われている。

舶用機器事業部
開発統括部
開発技術部部長

佐藤 定雄さん

BSH(ドイツ海事水路庁)での難関型式認定でハンヌは、検査官よりも厳しい基準で向かい合っていたことに驚いた。彼の一貫したユーザーファーストな考え方やあくなき探求心に感銘を受けた。この妥協しない姿勢こそ、社外からも尊敬され、信頼される理由の一つだと思う。

BSH(ドイツ海事水路庁)での難関型式認定でハンヌは、検査官よりも厳しい基準で向かい合っていたことに驚いた。彼の一貫したユーザーファーストな考え方やあくなき探求心に感銘を受けた。この妥協しない姿勢こそ、社外からも尊敬され、信頼される理由の一つだと思う。

Secretary-General, Comité International Radio-Maritime (CIRM)
Richard Dohertyリーチャド・ドーハティさん
(写真左)

海洋エレクトロニクス分野へのハンヌの卓越した貢献に深く感謝を申し上げる。初めて彼と出会った2013年、キプロスでのCIRM年次会議。複雑な問題を明確に解き明かして議論を活発化させた。その存在感を今でも覚えている。この12年間、彼の深い知見と高いプロ意識に感銘を受けてきた。彼が各種会議で惜しみなく知恵を共有し、技術基準と国際海事規則の進歩へ尽力したことは業界に大きな功績を残した(2024年、ハンヌはCIRMのJerry Parker Awardを受賞)。
※ CIRMの活動への卓越した貢献に対して贈られる賞

海洋エレクトロニクス分野へのハンヌの卓越した貢献に深く感謝を申し上げる。初めて彼と出会った2013年、キプロスでのCIRM年次会議。複雑な問題を明確に解き明かして議論を活発化させた。その存在感を今でも覚えている。この12年間、彼の深い知見と高いプロ意識に感銘を受けてきた。彼が各種会議で惜しみなく知恵を共有し、技術基準と国際海事規則の進歩へ尽力したことは業界に大きな功績を残した(2024年、ハンヌはCIRMのJerry Parker Awardを受賞)。
※ CIRMの活動への卓越した貢献に対して贈られる賞

国際部部長
友繁 元さん
(写真後列の右から3人目)

2003年、韓国・釜山での展示会コアマリンにおいて、満を持してフルノECDIS FEA-2107をリリース。その際ECDISの映像が映らず、ハンヌがつきっきりで対応。なかなかうまくいかず、皆が諦めかけたとき、突然画面に映像が! 床に座り込んで作業していたハンヌ(写真中央)の笑顔は今も忘れられない。

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