何か理由をつけては港に車を走らせ、お客様と何気ない雑談を交わしてニーズや困りごとをキャッチする。メモもペンも持たない。自らの頭の中にある膨大な知識と燃えさかる情熱だけを携えて現場に出向き、約40年にわたりお客様との信頼を築いてきた銚子営業所の宇都宮 信治。営業としてこれまで数々の功績をあげ、2024年には国内初、ついで2025年には2例目のスマートブリッジ※搭載も達成。1974年に入社し、今もなお快進撃を続ける宇都宮のレジェンドたる所以を紐解く。
※船速計やGPSプロッタ、レーダーなど各種電子機器をネットワークで繋ぎ、必要な情報をモニター上に映し出すシステム。
機器の「正解」は 使い手の満足にある
お客様からの「獲れたよ」が、私にとっては一番の褒め言葉ーそう話す宇都宮は、入社以来徹底したお客様目線を貫き、困りごとを解決して満足してもらうことに最大の喜びを見出してきた。この価値観が養われたのは、約20年間のサービスマン時代。ここで、現場を見る重要性を実感したという。
「お客様の船に乗って背後から機器を使う様子を見ていると、10人いれば10人とも使い方が違うと分かる」と話す宇都宮。例えばソナーひとつとっても、好みの表示モードや感度はさまざま。この好みを頭にインプットしておくことでトラブル時にもお客様の言葉ひとつで求められている対応が分かり、一人ひとりに合わせた調整ができる。当時から若手サービスマンにはよくこう話していた。「自分の視点で機器が直ったと思っても、お客様が納得していなければそれはトラブルのまま。あくまで使っていただく人が満足することが大事なんだから、それは覚えておいてくれよ」。この考えはその後、営業の現場でも真価を発揮する。
とお客様
逆境をものともせず勝ち取った深い信頼
宇都宮がサービスから営業職に転換したのは1993年。当時、釧路沖や八戸沖では資源が枯渇して漁獲量が急減し、どの漁業者も大きな打撃を受けていた。廃業によって船舶の数も減り、新たな設備投資も難しい不振の時代、宇都宮は初めての営業に挑戦することになる。当時を振り返り、「モノが売れない時代に素人が営業したって売れるわけがない、とお客様からはよく言われました。でもね、そんな時代だからこそ結果を出せば腕に自信がつくでしょう」と宇都宮。
先輩から引き継いだお得意先様に頼るのではなく、自分の力で新たなお客様を開拓したいと考え、千葉県の水産試験場で進行していた新造船の計画にアプローチをかけた。訪問したところで話を聞いてもらえる状況ではなかったが、担当者の一人がサービスマン時代の宇都宮を覚えていた。調査船の試験運転中、他社製にも関わらず機器トラブルに対応した過去があったのだ。これを足がかりに、銚子から6ヶ月間毎日4時間かけて訪問した。「通った、通った、本当に通った。そうしたら少しずつ話を聞いてもらえるようになり、長期休暇の後は『なんで先週は来なかったんだ』なんて言われて。知る限りの機器を全て揃えて提案したら、最後にはソナーもレーダーもフルノ製に変わっていました」。諦めない心、そして機器を語る知識と現場に通い詰める情熱がお客様の心を動かした。
どんなに劣勢であろうと、「もういいや」は禁句。妥協した瞬間に熱量が上がらなくなり、お客様に伝えたい言葉も思い浮かばなくなるからだ。それに加え、提案の前提として宇都宮が大切にしているのが、お客様をよく知ることだ。「どんな性格で何が好きな方なのか、どんな情報を欲しているのかを会話から汲み取って、その上で喜んでいただける製品を提案するのです」。どうすれば売れるかではなく、どうすれば喜んでいただけるか。その視点を貫く姿勢が、厚い信頼につながっている。
こぼれ話01
現場第一でトラブル対応
機器トラブル時にはすぐに船に駆けつけ、サービスマンと相談しながら原因を探る。豊富な機器の知識を活かしながらもサービスマンの腕を信頼し、必要な時にだけアドバイス。
宇都宮さんを語る
古野 清志さん
舶用機器事業部 副事業部長
兼 営業統括部長 執行役員
惹きつけられる人間力
「言葉足らず」などという単語は彼の辞書にはない。誰より勉強して知識を蓄え、困っている人がいればその知識を活かして手を差し伸べる。だからこそ、お客様も社員も宇都宮さんに惹きつけられる。あるお客様からは「あと2、3隻は造船するから、それが終わるまでは宇都宮さんを退職させないでよ」と言われた。宇都宮さんほどの人材はもう出てこないのではないかとすら思っている。
石本 徳光さん
韓国担当支店 営業技術担当部長
兼 韓国担当支店長
お客様によりそう達人
長年他社製品を使用されていたあるお客様から、宇都宮さんに「フルノの機器に替えたい」と声がかかったことがあった。これは、同じメーカーとの付き合いを重視する漁業界では極めて珍しいこと。製品を無理に売りつけるようなことはせず、常に「もっとお客様の現場を良くしたい」と考え、お客様の立場に立って製品を提案する宇都宮さんだからこそ実現できたことだと考えている。
製品を学び、愛してこそ 課題解決の道が拓ける
もう一つ、宇都宮の営業の根本にあるのが製品を愛する心だ。「機器というのは、愛さないと売れない。愛すれば、機器のメリットもデメリットも全て理解した上でメリットをお客様にいかに提供できるかを真剣に考えるようになるから、多様なアプローチができます」。だからこそ宇都宮は常に製品について学び、社内で「エンジニアが束になっても敵わない」と言われるほどの知識を蓄えてお客様の現場改善に活かしてきた。
その最たる例が魚群探知機「FCV-2000」だ。1996年当時、千葉ではイナダやブリのまき網漁が盛んだったが、時にイワシの魚群がかかって網目に突き刺さり、網が上がらず揚網時間が長くなって次の操業ができないために効率が非常に悪くなっていた。そこで宇都宮が着目したのが、魚体長の測定機能が搭載されたFCV-2000。これならイワシとイナダ・ブリの魚群を判別できるのではないか。そう考えた宇都宮は、機器のメリットもデメリットも説明した上で、熱を込めてこう訴えた。「いい機器だからどうしても使ってほしい。きっと3年後には『よくこの機器を付けてくれた』と言いたくなりますよ」。
その言葉は現実のものとなる。FCV-2000を導入した船では魚体長で魚群の種類を判別でき、イナダやブリを狙い撃ちできるようになった。漁に成功する様子を見た他の漁師からも続々と「うちの船にも入れたい」と声がかかり、その後半年で銚子営業所管轄の船に導入されたFCV-2000の台数は約50台にのぼった。
それ以前のFCV-2000は、発売後4年が経過していたものの販売台数は数台にとどまっていた。それでも宇都宮が機器のポテンシャルに着目できたのは、機器を学び愛すると同時に、現場の課題に向き合い続けてきたからだ。「この魚探のおかげで網の損傷が減った」。今もそう語るお客様の笑顔が、宇都宮の行動の確かさを裏付けている。
漁労長さん
阿部 真幸さん
第八共徳丸船団 漁労長
連絡すればいつも駆けつけてくれる宇都宮さん。対面での会話を大切にしてくれるので、話が早くて誤解も生まれない。私がこの船を任された時はすぐに「機械は宇都宮さんにお願いしよう」と思った。スマートブリッジの導入では、石巻の営業所とも連携し、漁をするエリア全域にサポート体制を敷いてくれたおかげで安心して導入できた。まだまだ引退せずに現役で頑張ってほしい。
こぼれ話02
銚子営業所メンバー
「年齢やキャリアに関わらず誰にでも対等に接してくれる」と営業所メンバーからも慕われている宇都宮。懇親会では、若手社員に対して営業のメソッドを熱く語る一幕も。
宇都宮さんを語る
西山 修平さん
東日本支店
銚子営業所 営業所長
営業としての理想形
直接の責任がないトラブルでも、「現場の責任者は自分だ」と早朝からお客様の会社の前で待機し、謝罪していたことがあった。その対応の速さ、誠意の見せ方、そしてお客様を大切に思い、責任を持って仕事をする姿が印象的だった。そんな姿から私も学び、「こんな時、宇都宮さんならどうするだろうか」と常に自問しながら営業している。全てが理想形であり、近づきたいと思っている。
行平 敏男さん
東海北陸支店
担当部長
永遠のチャレンジャー
情熱的かつ挑戦的で、自らの内に確信を持てば既存の手法にこだわらず「まずはやってみよう」と実現に向けて邁進する。その行動力や折衝力にはいつも感服させられる。今もなお、長崎に焼津に釧路にとお客様先を飛び回り、常に情報をアップデートしている。相談すれば具体的なアドバイスもくれるが、何よりその活力あふれる姿に後進は刺激を受けているのではないだろうか。
太田 厚士さん
東日本支店
支店長
「強気」ではなく「強い人」
顧客ファーストの姿勢はフルノの社員なら誰もが持ち合わせているが、宇都宮さんは具体策を行動に移す力とスピードが抜きん出ている。宇都宮さんが直属の上司だった頃は、「競合他社が優勢でも、機器が船に搭載される瞬間までは諦めるな」と何度言われたことか。その強い姿勢を営業としての仕事に活かしてきたし、今もなお、宇都宮さんから教わったことを部下に伝えている。
漁労長とともに 未来を見据え 漁業の進化を目指す
製品を愛するがゆえ、「お客様にとって価値がある」と確信すれば新製品も積極的に試してもらう。そして船に乗り込み「この設定では反応が鈍い」「このモードに切り替えてみましょう」と共に操作方法を確認し、エンジニアも巻き込みながら全身全霊でお客様が満足する形へと調整を重ねていく。時には現場の声を開発部門にフィードバックし、製品の改良や進化にも貢献してきた。
最先端の機器で漁をすることは、漁師にとっても一つの夢である。「漁労長が望むことはできる限り叶えたい」とその夢をともに追い、漁業の進化に向けて伴走する宇都宮。実績が少ないため新製品の導入はお客様にとって挑戦でもあるが、宇都宮への信頼が心理的な障壁すら越えさせる。事実、2024年4月に国内で初めてスマートブリッジを導入いただいた石田丸漁業株式会社の漁労長石田恒氏は「この船はフルノの実験船でいい」とすらおっしゃる。サービスマン時代から電話一本で困りごとに対応してきた宇都宮に全幅の信頼を置き、営業職への転換時には同社の会長が「宇都宮じゃなければ誰がうちの船を見るんだ」と反対したほどだ。
2025年5月には、国内2例目のスマートブリッジが株式会社儀助漁業の「第八共徳丸」に搭載された。船には大型モニターが並び、映し出される情報の視認性の高さやタブレットで画面を切り替えられる利便性の高さに「画期的」と満足されている漁労長の姿があった。当初、同社の船にはフルノの機器が導入されていなかったが、それにも関わらず採用に至った決め手は、やはり宇都宮の「よりそう姿勢」だ。同社の社長は、こう話してくださった。「機器の調子が悪い時はよく手助けをしてくれました。見返りを求めず、困っている人には手を差し伸べる人。宇都宮さんは御社の宝だと思います」
漁労長さん
石田 恒さん
株式会社石田丸漁業 漁労長
宇都宮さんとは、常に新しい製品を共に試し改善点を提案するなど、一緒に製品を作ってきた自負がある。私はフルノの広告塔。今では営業部長の心持ちだね。
こぼれ話03
プロ級の魚さばき
お客様から鮮魚をいただいた際には自らさばき、刺身などにして社員にふるまう。さばき方は独自に研究して極め、営業所メンバーと「銚子加工部」を結成する徹底ぶり。







