地球温暖化対策の一つとして注目されるブルーカーボン。その可能性を広げるために立ち上がったのが、フルノの「ブルーカーボンプロジェクト」です。今回はプロジェクトのメンバーである津島さんと飯塚さんに、取り組みの内容や現場での苦労、そして未来への展望について話を聞きました。
魚群探知機で藻場を調査する
──まず、このプロジェクトのキーワードでもある「ブルーカーボン」について教えてください。
飯塚さん:ブルーカーボンは、海藻や海草、マングローブ林などの海洋生態系に吸収・貯留される炭素のことです。近年は、こうした海洋生態系がCO₂の吸収源として果たす役割に注目が集まっており、地球温暖化対策のひとつとして期待されています。
──ブルーカーボンプロジェクトでは、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
津島さん:海藻・海草が群生する「藻場」を、漁師さんが普段使っている魚群探知機で測定する技術の開発に挑戦しています。もともと魚群探知機は魚を探すための機械なので、海藻・海草が見えるのかどうかも分からない状態からのスタートでした。しかし、1年にわたって測定を重ねた結果、小さい海藻・海草でもしっかり捉えられることが分かってきました。
装備事例
魚探の原理
──なぜブルーカーボンの取り組みでは、藻場を測定することが重要なのでしょうか?
津島さん:ブルーカーボンへの関心が高まる中、各地で海藻・海草を育てたり、藻場を再生したりする取り組みが進められています。その活動を効果的に進めるためには、どこにどのくらい藻場があるのか、また藻場がどのような状態にあるのかを把握することが重要です。
しかし現在、藻場を把握するためには、ダイバーによる水中撮影やドローンによる空撮、調査会社による年に数回の大規模調査が主流で、継続的なモニタリングにはコストや手間がかかるという課題があります。
潜水調査
ダイバーが直接観察
する方法
ドローン
浅場を広範囲に
調査可能
衛星観測
広域を把握できる
音響調査
水中の状況を継続的に
把握できる
漁師さんが普段使っている魚群探知機で藻場を測定できれば、より手軽に継続的なモニタリングができるようになります。そうなれば、ブルーカーボンの取り組みもさらに広がっていくのではないかと考えています。
──魚群探知機が気候変動対策にも役に立つ可能性があるのですね。
飯塚さん:そうなればいいなと思っています。現在は海藻・海草が映ることは分かってきましたが、次はどこまで解像度を高められるかという挑戦をしています。
温室効果ガスの削減・吸収量をクレジットとして取引できる「カーボンクレジット」が普及していますが、その海版ともいえるのが「ブルーカーボンクレジット」です。海藻や海草が海底をどの程度覆っているかを示す指標を「被度」といいますが、ブルーカーボンクレジットの申請では、この被度が重要な指標のひとつになります。藻場の面積や被度などを基にCO₂吸収量を算定する必要があるのです。そうしたデータを取得する手段として、フルノの魚群探知機や解析技術が活用できればと考えています。
藻場再生を経済価値に変える仕組みづくりが導入された
また、調査会社が年に数回測るだけではなく、現場の方々が継続的にモニタリングできるようになれば、海の変化をもっと細かく捉えられるようになります。コスト面でも継続しやすく、海の環境保全にも有効だと思います。
全国の海へ出張して藻場を測定する
──海藻・海草を詳しく測る技術の開発には、どのような苦労がありますか?
津島さん:海藻や海草を魚群探知機で捉えられることは分かっても、現時点では単に「ある・ない」が分かるだけでブルークレジットの認証に必要な評価を十分に行えるわけではありません。魚群探知機が捉えた映像と実際の藻場の状態を照らし合わせて、「どのような映像がどのような藻場を示しているのか」という答え合わせを行い、データを蓄積していく必要があります。
初期実験
岸壁付近にて、目視確認できる海藻を測定
魚群探知機「FCV-600」、送受波器、GPSセンサーなどを組み合わせ、
船の側面に固定した送受波器を使って岸壁付近の海藻を計測をしている様子
有無判定
有無判定は可能
海底上に若干弱いエコーとして出る
先日は広島県江田島市へ測定に行きました。その際には、魚群探知機で藻場を測定した後、実際に現地で海藻・海草の長さを測る検証も行いました。
──どうやって測ったのでしょうか?
津島さん:まず満潮時に船で藻場へ行き、魚群探知機でデータを取得します。その際、位置が分かるように手製のおもりを沈めて目印を付けておきました。そして潮が少し引いて海が浅くなってから、メジャーとカメラを持って藻場へ向かいます。おもりにつけた浮きを目印に場所を特定し、波をかき分けながら歩いてその場所に向かい、海藻・海草の長さをメジャーで測定しました。
飯塚さん:私は津島さんと一緒に現場へ行き、測定の補助や記録を担当していました。
飯塚さん:北海道での実証実験では、悪天候のため予定していた測定を実施できない場面もありました。ただ、その経験をきっかけに、現地の漁業者や協力者の方々だけでも測定を進められるよう機材や手順を整備。その結果、後日データの取得に成功し、技術者が現地にいなくても測定できる運用方法を確立することができました。
魚探を使った測定は、専門家だけでなく現場の方々でも扱いやすく、音響を利用するため、水の濁りやある程度の水深がある環境でも測定できることが特長です。
──全国あちこちに行っていますね。
実験海域一覧
飯塚さん:現在は全国各地の藻場再生プロジェクトに参画していて、関わっているフィールドは10か所ほどになりました。各地の取り組みをされている方々に意見交換をお願いしたり、勉強会で知り合った方と情報交換をしたりしながら、少しずつ協力の輪が広がっています。
このプロジェクトでは地元の漁師さんの協力が欠かせません。フルノの人間だと伝えると話を聞いてくださったり、協力してくださったりします。先人たちが長年築いてきた信頼の上で、活動を進められているのだと感じています。
──プロジェクトの具体的な事例を紹介してください。
飯塚さん:現在、旭タンカー株式会社と山口県漁業協同組合と連携し、持続可能な里海づくりに取り組んでいます。旭タンカーさんが魚群探知機を購入し、それを漁業者へ提供する。漁業者の皆さんには日々の操業の中で藻場のある海域を航行していただき、モニタリングデータを収集しています。
山口県漁業協同組合 吉佐統括支店長:徳冨 暁江さん、
古野電気株式会社 取締役 専務執行役員 兼 CMO:矮松 一磨さん
若手エンジニアが挑戦する理由
──おふたりがこのプロジェクトに参加した理由はなんでしょうか?
飯塚さん:私は現在、開発部で機器の設計を担当していますが、大学時代は衛星データを用いて藻を識別する研究に携わっていました。その経験が活かせるのではないかということで、プロジェクトの初期段階で声を掛けてもらいました。
津島さん:僕が参加したのは立ち上がった翌年です。きっかけは飯塚さんの社内プレゼンでした。インターン時代に担当した縁もあったので聞いてみたところ、とても面白くて、自分も関わりたいと思いました。プロジェクトにはさまざまな技術や知見を持ったメンバーがいます。データ解析の専門家は多かったのですが、センサーやシステム部分を担当できる人材は少なかったので、自分の経験を活かせるのではないかと思いました。
また、環境課題への取り組みや、異なる部署の人たちと協働する経験は、自分を成長させる良い機会になると感じました。
──実際にプロジェクトメンバーになってみていかがですか?
飯塚さん:開発部にいるとなかなか社外の人と関わる機会は少ないですが、このプロジェクトでは社外の方々と関わる機会が非常に多くあるので勉強になります。社内でも経営企画部門など、普段あまり関わる機会の少ない方々と仕事をする機会があり、とても学びが多いですね。
津島さん:僕はまだ参加して2か月ほどですが、普段の開発業務とは全く違う経験ができています。現地に出向いて関係者とお話ししたり、さまざまな部署のメンバーと協力したりすることが自分自身の成長につながっていると感じています。
──プロジェクトリーダーの藤本さんから見て、おふたりはどうですか?
藤本さん:とても良いペアですね。先ほど話に出た海藻・海草を直接測る取り組みも、「こういう検証をしたい」と積極的に提案してくれました。実験計画もどんどん出してくれますし、とても頼もしく感じています。
フルノ発のブルーカーボンスタンダードを目指して
──このプロジェクトは今後どのように発展させていきたいですか?
藤本さん:現在、一緒に取り組んでいるフィールドは10か所ほどあります。ただ、それぞれの団体が目指しているゴールはさまざまです。ブルーカーボンクレジットの取得を目指しているところもあれば、環境保全活動として取り組んでいるところもあります。今後は、クレジット取得を支援する形で関わるのか、それとも別の形でデータを活用し、地域企業と連携した活動につなげていくのか。測定の先にどのような価値を生み出せるのかを考えている段階です。
将来的には、フルノの測定技術や蓄積したデータが、ブルーカーボンの算定や評価の標準化に貢献できればと思っています。測定技術を提供するだけでなく、その技術がブルーカーボン算定の基準づくりにも役立てば、より多くの人が取り組みやすくなるはずです。
津島さん:技術的な面では、今年度は超音波計測でどこまで測れるのか、その限界を見つけたいと思っています。現在のシステムで被度を測定できないか挑戦していますし、将来的には種類の判別までできるようになればと考えています。
また、藻場の測定をきっかけに、既存技術の新たな活用方法も見えてきました。魚群探知機はフルノが長年培ってきた技術です。その技術をさらに磨いたり、これまでとは異なる分野へ応用したりすることで、新しい価値を生み出せる可能性があると感じています。
飯塚さん:ブルーカーボンについては、まだ十分に知られているとはいえません。海の生態系の重要性について、もっと知っていただく必要があると感じています。藻場が増えることで、CO₂を吸収できるだけでなく、魚の産卵場所や生育環境が広がり、豊かな海が育まれます。こうした海の価値を次世代へつないでいけるように、さまざまなパートナーと協力しながら挑戦を続けていきたいですね。
──ありがとうございました。フルノの取り組みに興味を持っていただけた方は、ぜひブルーカーボンプロジェクト特設サイトもご覧ください。







