給餌コストの高騰や人手不足など、さまざまな課題を抱える養殖業では、データ活用による効率化や「スマート養殖」への期待が高まっています。そうした中、フルノは水中カメラとAIを活用した「魚体重推定システム」を開発しました。フルノの新規事業のひとつである養殖支援事業。その最前線で挑戦を続けるふたりに話を聞きました。
水産業の未来を支えるため、養殖分野へ
──船舶用電子機器が主力のフルノが「養殖」支援分野の事業を始めたのは、いつ頃からですか?
曽田さん:2020年に「養殖支援事業推進室」が立ち上がりました。そのときは6人ほどの小規模な組織で、養殖向けの新規事業や商材を広めていく部署でした。その後、2025年に海運やシステム開発関連の部署と統合され、現在は「DX推進部」の一部になっています。
──なぜ養殖もやろうということになったのでしょうか。
曽田さん:今後、漁船の数や天然の漁獲量は減少していくと考えられています。その中で、養殖は世界的に成長していく分野だと考えられます。水産業を支えていく企業として、養殖に取り組む必要があるという思いから事業が始まりました。 食料の安定供給という意味でも、養殖支援は重要な事業だと考えています。
──これまでフルノが培ってきた経験は活かされたのでしょうか。
曽田さん:活かされた部分ももちろんありますが、養殖業と“獲る漁業”はまったく別の世界で、多くのことが異なりました。 漁業や海運関係の企業としてフルノの名前を知っていただいていても、「なぜフルノが養殖業に?」と不思議がられることも多かったですね。ですから、ほぼゼロからのスタートでした。
最初の頃は、電話帳で養殖会社を調べて電話をかけ、「お話を聞かせていただけませんか」とお願いするところから始めました。実際にお会いして関係を築きながら、フルノも養殖業を支援する魚体重推定システムを開発していることを少しずつ知っていただき、地道に認知を広げていきました。
水中カメラとAIで、生簀の魚を“見える化”する「魚体重推定システム」
──「魚体重推定システム」は、どのようなシステムなのでしょうか。
糸井さん:水中カメラ、通信ケーブル、通信ユニット、操作用スマートフォンで構成されたシステムです。これらを船に載せて生簀に近づき、カメラを水中に沈めて使用します。 生簀内を5分ほど撮影し、その映像を解析することで、養殖している魚の平均体重や大きさ、さらにそれらの分布状況まで把握できます。
糸井さん:カメラ操作や録画も、すべてスマートフォンで行えるのが特長です。他社製品ではパソコン操作が必要な場合もありますが、弊社のシステムは洋上にパソコンを持ち込む必要がありません。その点は現場でも喜ばれています。
曽田さん:カメラ自体も高性能ですが、それだけではありません。独自の特許技術によって、水中の複雑な光の屈折下でも、安定して測定できるカメラ構成を実現しています。水中では、光の屈折によって魚の大きさを正確に測定するのが難しくなります。そのため、魚体サイズや体重を解析するには、屈折の影響をあらかじめ補正する必要があります。社内には、その校正を行うための巨大な水槽も設置されています。
──スマートフォン操作や高性能カメラ以外にも、魚体重推定システムの強みはありますか。
曽田さん:画像から魚の体重を推定する際には換算式を用いるのですが、その換算式を、魚種や現場環境に合わせて継続的に更新している点も強みです。こうした積み重ねによって、高精度な魚体重推定を実現しています。
高騰する給餌コストで求められる養殖の効率化
──生簀の中の魚の体重や大きさが、魚体重推定システムで測定できたら養殖業者さんにどのようなメリットがあるのでしょうか。
糸井さん:現在、養殖業で大きな課題になっているのが給餌コストです。水産庁によると、魚類養殖では餌代が生産コストの約8割を占めています。さらに、養殖用配合飼料の多くは輸入に依存しており、近年は円安や国際情勢の影響で価格が高騰しています。
糸井さん:魚を成長させるためにはエサが必要ですが、必要以上に与えてしまう無駄餌はできるだけ減らしたい。魚体重のモニタリングと給餌量の関係を把握できれば、より効率的な給餌ができ、コスト削減につながります。
また、養殖では出荷時の魚の体重やサイズが販売価格にも大きく関わるため、定期的な測定は欠かせません。従来は、生簀から魚を捕まえ、数匹の体重や大きさを測定して全体を推定していました。しかし、この作業は魚にも人にも負担が大きく、頻繁に行うことは難しかったのです。 その点、魚体重推定システムなら魚を傷つけることなく短時間の作業で欲しいデータを得ることができます。
──単にデータを取得するだけでなく、測定データを蓄積していくことで、さらに効率的な養殖にもつながりそうですね。
曽田さん:はい。私たちとしては、ぜひ、そのように使っていただきたいと考えています。現在のシステムでもデータを活用して、さまざまな経営課題の改善に役立てていただくことができますが、それに加えて今後は、蓄積したデータをもとに給餌量をシミュレーションするシステムや、魚体重やサイズだけでなく、魚の体調やコンディションまで把握してもらえるよう、さらなる機能の開発も進めています。
世界有数のサーモン養殖国・チリへ
──おふたりは一緒に動くことが多いのでしょうか。
糸井さん:そうですね。新規事業なので、営業も顧客対応も、基本的には自分たちで行っているのでふたりで行動することが多いです。曽田さんとは、DX推進部へ異動する前にブランドコミュニケーション課で一緒だったこともあり、長い付き合いです。お互いに率直に意見を言いやすい関係ですね。時にはぶつかることもありますが、それだけ本音で話せているのだと思います。
曽田さん:糸井さんは気配りもできますし、ガッツもあります。朝4時に起きて現場へ行き測定を行うのは、仕事とはいえ、なかなか大変です。でも、嫌な顔ひとつせず「行きます」と言ってくれるので、本当にすごいなと思っています。
──普段どのように働いているのでしょうか。
糸井さん:基本的には出張で全国の養殖業者さんを回っています。実際にカメラを使っていただいたり、お話を伺ったり。泊まりがけで、朝4時に起きて現場に向かうこともよくあります。日本国内だけでなく、海外へ出張することもあります。先日はチリに行きました。
──チリは、かなり遠そうです!
糸井さん:遠かったです(笑)。フライトを3回乗り継ぎました。まずアメリカのロサンゼルスへ行き、そこからチリの首都サンティアゴ、さらに目的地のプエルトモントへ。トランジット込みで32時間ほどかかりました。
──チリは養殖業が盛んですよね。
曽田さん:はい。世界有数のサーモン養殖国として知られています。ノルウェー由来の技術も多く入っていて、養殖のDX化もかなり進んでいます。そのため、私たちのシステムへの理解も早く、興味を持っていただけました。
チリで使われている水中カメラは、生簀ごとに固定カメラを設置するタイプが多く、解析に1週間ほどかかるケースもあります。一方、フルノの魚体重推定システムは、30分程度の計測で、翌日には解析結果を確認できます。魚は日々成長するので、早く状況を把握できることは大きな強みです。また、弊社のカメラは1台を持ち運びながら複数の生簀を測定できるため、導入コストを抑えられることも評価されました。
糸井さん:そうした点を、南半球最大級の養殖業展示会「AquaSur」に出展してアピールしてきました。多くの方に興味を持っていただけたと思います。
行動しなければ、新しい価値は生まれない
──今の仕事を通じて、得たことはありますか?
糸井さん:この仕事を通じて営業職へのリスペクトが大きくなりました。また、ビジネスの難しさも実感しています。数字のこと、お客様対応、そしてフルノとしての誠実さ。そうしたものを最前線で担う難しさがあります。まだ乗り越えられていませんが、その壁を越えられたら、もっと成長できるのではないかと思っています。
曽田さん:私はチャレンジ精神ですかね。あとは、いい意味でのいい加減さです。理詰めで考えすぎるのではなく、まず行動してみる。行動しないと反応も得られませんし、誰にも知ってもらえません。
──フルノの養殖支援事業を通じて、実現したいことは何ですか?
曽田さん:養殖は、フルノにとって新しい挑戦です。これからさらに伸びていく市場だと思っていますし、その中で、“新しいフルノ”を自分たちで形にしていけたらという思いがあります。
また、養殖業もDX化によって若い人が参入しやすくなり、「かっこよくて、しっかり稼げる仕事」というイメージになってほしいです。フルノの技術で、その後押しができたらいいなと思っています。
糸井さん:安定した食糧供給という面から見ても、養殖業を支援することは重要だと考えています。いつでもおいしい魚が安定して食べられる未来に、貢献したいですね。








